サラリーマンのための歴史 『ゴッド・ハンド』事件とはなんだったのか

2000年11月に毎日新聞が「旧石器捏造事件」をスクープしました。当時、僕は大学4年生で卒論提出の一ヶ月前でした。僕の研究テーマは縄文時代だったので影響は受けませんでしたが、旧石器時代の研究をしていた同期の中には論文の根拠が瓦解した人もおり、大変なインパクトがありました。




この事件は、それまで旧石器時代の遺跡発掘で多くの新発見をし、その功績は『ゴッド・ハンド』と称されていた東北旧石器文化研究所の藤村新一氏の実績のほぼ全てが捏造であったことが判明したものでした。今回は、その事件をビジネスシーンに当てはめて説明したいと思います。

まず、この事件の背景の前に考古学における遺跡調査の流れを説明します。遺跡の発掘で得られた成果は、遺跡発掘期間の最後に「現地説明会」として公開されます。ただし、この時点では出土した遺物や遺構を紹介するだけであり、考古学上どのような意味があるのかの評価はなされていません。その後、遺物や遺構の分析や検証を行い、『発掘調査報告書』として刊行されます。この『発掘調査報告書』の内容こそ考古学研究の一次資料として重要なものとなります。研究者は、この報告書と実際の遺物の調査を頼りに研究活動を行います。

この『調査報告書』の刊行までは発掘後数年から数十年を要します。規模の大きな遺跡は発掘調査が何年間にもわたるため、調査報告書も段階的な刊行となり、最終的な結果報告まで数十年かかることもあります。僕が1997年に参加した発掘調査の報告書は2001年に刊行されましたが、おおよそ、このくらいの期間が一般的じゃないかと思います。しかし、藤村氏が参加した発掘調査の多くは調査報告書の刊行がされておらず、調査の成果が公的なものとなっていないにも関わらず、「日本最古」という成果は政府のプライドや地元の観光業に大きなインパクトがあったために、既成事実として認められていたったのです。

さて、ここからは捏造事件がどのようなものであったのか、ビジネスシーンで説明したいと思います。

藤村さんが設立したベンチャー企業『ゴッド・ハンド』は謎のベンチャー企業ですが、設立以来、毎年倍倍ゲームで利益を増やしています。これには世間の投資家もざわつきました。しかし、この企業は創業以来一度も決算報告書を出していませんでした。利益が出ているといっても、それはプレスリリースだけでの話、きちんと会計監査を受けた報告書ではなかったのです(これ実際のビジネスでは違法だと思いますけどね)。

ですので、会計士協会は『ゴッド・ハンド』の発表する利益は信用しないようにと警鐘を鳴らしていました。しかし、協会の中の反主流はの人たちは『ゴッド・ハンド』の成果を喧伝するとともに、自らも出資していました。彼ら反主流の影響は大きく、多くの投資家や年金基金、地方自治体も『ゴッド・ハンド』に出資するようになりました。こうなるど、『ゴッド・ハンド』に対して批判することには社会的に大きなリスクが出てくるようになり、みんなが黙ってしまたのです。

そんな中、毎日新聞が『ゴッド・ハンド』の利益が捏造であり、実際には大赤字であることをすっぱ抜きました。これによって『ゴッド・ハンド』の株券は紙切れとなり、出資家たちは大損することとなりました。今では「世界最古の旧石器が出た」と騒がれた町では、全てが無かったことにされています。観光業者たちもガッカリです。

めでたしめでたし。





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